血管疾患(大動脈解離、大動脈瘤、末梢動脈疾患、下肢静脈瘤)と心臓疾患(虚血性心疾患、心臓弁疾患)に対する外科治療を行っています。
治療疾患Works
大動脈疾患
札幌医科大学心臓血管外科では大動脈疾患(胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤・大動脈解離)を中心に、末梢血管疾患から静脈疾患まで血管に関するあらゆる疾患に対して外科治療を行っています。
- 胸部大動脈瘤に対する外科治療
- 腹部大動脈瘤に対する外科治療
- 胸腹部大動脈瘤に対する外科治療
- ステントグラフト治療
胸部大動脈、腹部大動脈、ステントグラフトの合併症
末梢血管疾患
- 腸骨動脈瘤に対する外科治療、ステントグラフト治療
- 閉塞性動脈硬化症に対する下肢バイパス術
- 経皮的血管内形成術
静脈疾患
- 深部静脈血栓症に対する治療
- 下肢静脈瘤に対する外科治療および硬化療法
- 下肢静脈瘤に対する治療
その他
- 透析シャント作成
虚血性心疾患
虚血性心疾患のなかでも頻度の高い病気は、狭心症や心筋梗塞であり、これらに対する外科治療として冠動脈バイパス術を行っています。心臓は全身に血液を送るポンプですが、そのポンプを動かす動力源のパイプラインが冠動脈です。ここに狭窄や閉塞をきたし十分な酸素供給ができなくなった状態が狭心症です。放置すれば急性心筋梗塞で命を失うことになりかねません。
カテーテル治療はその狭い悪い血管の治療で現在でもその再狭窄は大きな問題です。しかし、冠動脈バイパス術(別の血管で狭窄の末梢へ新しい道を作る)は、冠動脈の狭窄部分の末梢側に別の血管をつないで別の血の流れをつくる、いわゆる道路でいうバイパス道路(渋滞を解消する高架道路)と同じ考えで行われる血行再建術のことをいいます。これは良い血管への治療で、その最大の利点は10、20年先までのquality of lifeを考えた長期予後の改善です。当科では、狭心症・心筋梗塞に対して,人工心肺を用いない冠動脈バイパス術(OPCAB)を施行しております。この手術方法は、手術成績、長期成績、QOL(生活の質)の著しい改善をもたらすばかりでなく、ご高齢の患者さまや、脳梗塞・腎不全などの合併疾患を有する重症患者さまにも安全に外科治療を受けて頂ける利点があります。
弁膜症
□大動脈弁疾患
大動脈弁とは、心臓のポンプである左心室の出口にある弁です。血液は左室がポンプのごとく収縮し働くことで全身にいきわたるのですが、大動脈弁は送り出された血液が大動脈から左室へ逆流することを防ぐという重要な働きをしています。 この弁がうまく開かないのが狭窄症、閉じないのが閉鎖不全症です。
病気が進行すると、症状(労作時の息切れ、動悸、疲れやすい、さらにひどくなると胸痛、意識消失)を認めるようになり、最悪の場合、突然死にいたることもあります。薬を用いて内科的に治療を行うことは可能ですが、原因は弁の形や動きに問題があるため、病変が進行した場合に根本的な解決をするためには手術が必要となります。そして、その標準術式は大動脈弁置換術となっています。
大動脈弁置換術とは正常に機能しなくなった弁を摘出し、人工弁に置換し機能を代替させるというものです。弁機能を改善させることにより心臓の左室にかかる負担が軽減され、自覚症状や予後の改善といった大きな恩恵を得ることができます。従って高齢者や重症例にも積極的に手術を勧められています。
人工弁は機械弁と生体弁に大きく2種類に分類することができます。原則として70歳以上の患者さんには生体弁を、70歳未満の方には機械弁をお勧めしています。
機械弁
チタンなどの金属により形成されているので耐久性が高く、生涯にわたり使用できます。しかしながら材質上、弁に血栓(血の塊)が付着しやすく、最悪の場合は弁の可動性が損なわれ再弁置換術となる可能性があります。したがって生涯にわたり毎日一回、ワーファリンという血を固まりにくくする薬を内服する必要があります。ワーファリンの内服をきちんと継続すれば半永久的に使用できるため、若年の患者様に適応が考慮されます。
生体弁
ウシ心膜もしくはブタ大動脈弁を加工したものが主に使用されています。弁に血の塊が付着しにくく、術後3ヶ月~6ヶ月後にはワーファリンの内服が不要となります。しかし最大の問題点は弁の耐久性であり、一般的に機能が保たれるのは12~15年とされています。そして、弁の機能異常が出現した場合は再手術が必要となります。耐久性の問題を考慮し、日本循環器学会「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」では65歳以上の方に推奨されています。また、催奇形性があるワーファリンを内服する期間が一時期のみであるため、挙児希望の若年女性にも適応があります。
□僧帽弁疾患
僧帽弁は心臓内の左心房と左心室間に位置する弁で、左心房から左心室へ流入する血液が左心室から左心房へと逆流を起こさないようにする大切な役割を担っています。この弁は、左心室の腱索によって引っ張られ、左心室が収縮する時に閉鎖するようになっています。この腱索が切れたり、伸びたり、あるいは左心室へ落ち込んだりすることにより、うまくあわないようになり逆流を生ずるのが僧帽弁閉鎖不全症です。原因として、加齢による弁の退行性変化、虚血性心疾患による弁支持組織の病変、リウマチ性、感染性、先天性、外傷性などがあげられます。重症度分類は心臓エコー検査等による逆流量の測定によって、軽症、中等症、重症に分類されます。僧帽弁閉鎖不全症が進行すると心不全症状を呈してきます。代表的な自覚症状として、労作時の息切れ、全身倦怠感、動悸(不整脈の出現)、むくみなどです。しかしながら慢性的な僧帽弁逆流症の場合、症状の進行が緩徐で高度逆流が存在しても自覚症状を訴えない場合もあります。そのため、心臓エコー検査等にて定期的な重症度チェックを行うことが大切です。
治療法としては内科的療法と外科的療法に分けられます。急性の僧帽弁閉鎖不全症は急激に心不全が悪化する症例が多く、速やかな外科的治療への移行が大切となります。慢性の僧帽弁閉鎖不全症では、内服剤や点滴等による内科的治療がまずは試みられます。しかしながら、中等度以上の逆流を生じた場合、外科的治療が第一選択となりつつあります。
手術法としては僧帽弁置換術と僧帽弁形成術の大きく2つに分けられます。
僧帽弁置換術は昔から行われている一般的な治療法で、治療成績も安定していますが、機械弁を使用した場合、生涯、抗凝固療法(人工弁に血栓がつかないように血液を固まりずらくする治療)が必要で、脳梗塞や、出血など、服用する薬による合併症の危険を避けては通れません。
僧帽弁形成術の利点としては、人工物の使用がほとんどないため長期間の抗凝固薬の使用が不要となることです。ただし、心房細動等の不整脈を合併している場合はこれにあてはまりません。また、自分の心臓の形態を維持できるため術後の心機能が良好に維持できることから予後の改善にもつながるとされています。そのため弁置換術より弁形成術の方が望ましいのです。当科では僧帽弁閉鎖不全症に対して弁形成術を第1選択として取り組んでいます。この方法で術直後の残存逆流を限りなく0に近づけるべく努力を行い、10-20年後まで逆流の起こらない手術を目指しています。